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授業がうまくなりたい。そう思って調べると、手法の話ばかりが出てきます。板書のコツ、発問の型、グループワークの進め方。どれも間違ってはいません。
ただ、順番が違います。
授業のうまさは、目的があるかどうかで決まります。手法は、その下にあるものです。目的から逆算されている授業なら、手法は何であっても、ある程度うまくいきます。目的を達成しているのだから当然です。
逆に、目的のない授業は、どれだけ手法が洗練されていても届きません。
そんなことはあり得ない、と思われるかもしれません。目的のない授業なんて普通は無い、と。ところが実際には、因数分解をやることそのものが目的になっている授業は、いくらでもあります。
だから、たったこれだけで授業はうまく見えます。それをやっている人が、驚くほど少ないからです。
いい授業とうまくいかない授業の違いは目的があるかどうかです
授業の良し悪しを分けるものは、ひとつだけです。その授業で、生徒が何をできるようになるのかが決まっているか。それだけです。

授業の目的は生徒が何をできるようになるかで決めてください
目的というと、指導案に書く堅い文言を思い浮かべる方が多いと思います。そうではありません。この50分が終わったとき、生徒が何をできるようになっているか。それが目的です。
たとえば因数分解の授業をするとします。「因数分解ができるようになる」は、実は目的として弱いです。それは作業の説明でしかありません。
なぜそれをやらなければいけないのか。それができるようになった先に、生徒にどんな未来が待っているのか。ここまで降りて初めて目的になります。そして、この部分は授業の中で常に言い続けなければいけません。言わなければ、生徒には伝わらないからです。
授業をするための授業になっていないか確かめてください
気をつけたいのは、授業をすること自体が目的にすり替わる現象です。
教科書を進める。予定していた活動を全部やる。用意したスライドを最後まで見せる。これらは、やり切ると達成感があります。しかし生徒が何かをできるようになったかとは、まったく別の話です。
私も初任のころ、まさにこれをやっていました。自分がやりたい授業をすること、頑張っている姿を見せることに必死で、生徒が伸びたかどうかを見ていませんでした。頑張っているのだから評価も上がるはずだ、とすら思っていました。
授業の準備をする前に、一度だけ自分に問い直してみてください。この授業は、誰のために組んでいるのか。
授業づくりは発問を決めるところから始まります
授業を作るとき、何から手をつけるか。私の場合、発問を決めるところから始まります。
授業の構想は日常の中で先に育っています
正直に書くと、「まず何から手をつけるか」という起点は、実はあまりありません。教科書の内容が普段から頭に入っていて、どれを何にしようかとずっと考えているからです。
授業を作る時間は、ゼロから組み立てる時間ではありません。頭の中にある構想を、形にする作業です。だから机に向かう時間は短くて済みます。
これは特別な能力の話ではありません。担当する単元が決まっていて、それを何年か繰り返していれば、自然にそうなります。準備が速い人は、机に向かう前から始めているというだけのことです。授業のストックを貯める考え方は早く帰るためにストックを貯める方法にも書きました。
授業は発問が決まれば骨組みができます
具体的な作業として最初に決めるのは、発問です。
発問が決まると、その問いに答えるために必要な情報が決まります。必要な情報が決まると、板書もスライドも自動的に決まっていきます。発問は、授業全体の骨組みです。
逆に、板書やスライドから作り始めると、途中で迷子になります。情報は無限に足せるからです。どこまで調べればいいのか分からなくなり、教材研究が終わらなくなる。その原因は、たいてい発問が決まっていないことにあります。
教材研究は7割の生徒が到達すると思えたら十分です
教材研究には終わりがありません。だから、自分で終わりを決める基準が要ります。私の基準を書きます。
教材研究の終わりは到達する生徒の割合で決めてください
私の基準は明確です。自分が達成させたい目標に対して、7割くらいの生徒がそこに到達するだろう、という確信めいたものが持てたら十分です。そこで教材研究をやめます。
大事なのは、この基準が手法ではなく目標から決まっていることです。「教科書を3回読んだから」「参考書を2冊読んだから」ではありません。それは作業量であって、到達度とは関係がありません。
10割を目指す必要はありません。全員を到達させようとすると、教材研究は無限に膨らみます。そして膨らんだ分だけ、他の仕事と自分の時間が削られていきます。7割で線を引く。この割り切りが、準備時間を現実的な範囲に収めます。準備時間そのものの削り方は授業準備・教材研究で時間を使わない考え方にまとめています。
教材研究で読んだ情報は厳密でなくてかまいません
もうひとつ、初任のころの自分に言いたいことがあります。授業で使う情報は、そこまで厳密である必要はありません。
もちろん間違ったことは教えられません。ただ、教材研究で調べた背景知識のうち、実際に授業で使うのはごく一部です。細部まで完璧に押さえても、生徒の到達度はほとんど変わりません。
私は当時、背景知識の穴をなくして、洗練された情報の取捨選択で完璧な授業をしたいと思っていました。その気持ちは分かります。ただ、その労力を発問の設計に回したほうが、授業は良くなります。
授業のスライドは凝らなくていいです
ここは誤解を招きたくないので、丁寧に書きます。私はおしゃれなスライドを作れます。そのうえで、凝る必要はないと考えています。
授業のスライドにはハロー効果があります
まず、スライドの効果を認めます。スライドには、生徒に「すごい」と思わせる効果があります。とくにおしゃれなものほど、その効果は大きくなります。
見た目が整っていると、話の中身まで整って見える。これは実際に起きます。動きをつけて注目を集めることもできます。PowerPointの変形を使って画面を動かすと、生徒の反応は確かに変わります。
ただし、正直に付け加えます。その反応は、授業の目的とは関係がありません。動きに反応しただけで、何かができるようになったわけではないからです。
授業のスライドは準備の割に効果が見合いません
スライドの代償も書きます。ひとつは、一緒にプリントへ書き込んでいく体験が失われることです。
手を動かしながら考える。教員が書くのを待ちながら、自分も書く。この時間には、画面を見ているだけでは得られないものがあります。スライドに寄せるほど、生徒は受け身になります。
もうひとつは、準備の重さです。おしゃれに見せる、動きをつける、答えを先に見せないよう配置を考える。ここに使う時間は、費用対効果が合いません。作れる側の人間として、そう思っています。
だからスライドは、図解が多くて口頭では伝えにくい内容のときに使えば十分です。それでも作りたい方、作ると決めている方は、ロイロノートのスライドをおしゃれにする方法に手順をまとめてあります。
授業のスライドを速く作るならAIと過去の継ぎはぎです
作ると決めたなら、速く作るべきです。時間をかけないための方法を書きます。
授業のスライドはAIに任せられる部分が増えました
いまは、スライド作りで困ることがほとんどなくなりました。理由は単純で、AIを使っているからです。
おしゃれに整える、構成を考える、文言を練る。かつて時間を食っていた部分は、かなりの割合を任せられます。最終チェックだけは自分でやる。それが今のやり方です。
指導案でも同じことが言えます。AIを使った具体的な手順とプロンプトは学習指導案はAIで作れるにまとめました。授業のスライドにも、そのまま応用できます。
授業のスライドは過去の資産から継ぎはぎしてください
AIが無かったころから使っている方法も、いまだに有効です。過去のスライドからの継ぎはぎです。
スライドの素材は、ブロック単位でコピーできます。だから、たくさん作っておいて、そこから引っ張ってくる。毎回ゼロから作らない。スライドは作るたびに資産が増えるという前提で考えてください。
この考え方は、良い授業を真似することとも地続きです。授業準備の時間がない教員が早く良い授業を作る方法で書いたように、自分の中にも他人の中にも、使える素材はすでにあります。
グループワークは必要かどうかから考えてください
グループワークは、入れれば良い授業になるものではありません。やる前に確かめることがあります。

グループワークは全員に活躍の場があるときに成立します
確かめるのは、順にこの三つです。そもそもグループワークをする必要があるのか。全員が協力する必要があるのか。全員に活躍の場所があるのか。
三つ目がとくに重要です。活躍の場がない生徒がいるグループワークは、その生徒にとって座っているだけの時間になります。よくある「話し合ってみよう」が空回りするのは、たいていここが理由です。
うまくいく形には共通点があります。ジグソー学習は、自分が読んだ資料は自分しか知らないので、全員に必ず出番があります。哲学的な問いへの意見交換も成立します。全員が何らかの体験と意見を持っているからです。
グループワークより先に授業の目的を決めてください
順番の話に戻ります。グループワーク以前に、まず目的です。
目的が決まっていれば、グループワークが要るかどうかは自然に決まります。一人で考えたほうが到達できるなら、一斉授業でかまいません。他人の意見に触れないと到達できない目的なら、そこで初めてグループワークが必要になります。
「最近はグループワークを入れないといけないらしい」から入れる。この動機で組むと、まず空回りします。手法から入らないでください。
授業の発問は生徒の常識から逆算して作ります
発問が授業の骨組みだと書きました。では、その発問はどう作るのか。生徒がいま持っている常識から逆算します。
授業の発問は生徒が知っていることを起点にしてください
考えるのは、いまの生徒が何を当たり前だと思っているかです。そこを起点にすると、問いが生きます。
たとえば、生徒は「遅刻をしてはいけない」ことを知っています。それは常識として持っている。そこで、こう問います。なぜ、遅刻をしてはいけない世界になったのか。
知っていることの理由を問われると、人は考え始めます。知らないことを問われても、思考は動きません。生徒の中にすでにあるものを揺らす。これが効く発問の条件です。
授業の発問には使いやすい型があります
型として持っておくと便利なのは、「〇〇だったのに、なぜ△△なのか」という形です。
過去はこうだったのに、今はこうなっている。あちらではこうなのに、こちらでは違う。この落差を問いにすると、生徒は理由を探しにいきます。社会科でも理科でも、多くの単元で使えます。
発問と授業の骨組みを一枚に落とし込む作業は、指導案そのものです。書き方に不安がある方は学習指導案の書き方を記入例つきで解説した記事を参照してください。
授業がうまい人からは得意分野ごとに盗んでください
最後に、うまくなるための一番の近道を書きます。人の授業を、もっと見に行ってください。
授業は得意な人の得意な部分だけを盗めば十分です
盗み方にはコツがあります。その人が得意な部分だけを盗むことです。
話し方がうまい先生からは、話し方のコツを。プリントの作り方がうまい先生からは、その作り方を。スライドがうまい先生からは、その組み立てを。一人の先生を丸ごと真似する必要はありません。
授業を見に行くと、つい「この先生はすごい」で終わってしまいます。そうではなく、何がすごいのかを分解する。分解できれば、自分の授業に部品として組み込めます。
授業は組み合わせができるようになると応用が利きます
盗んだ部品が増えてくると、次の段階に進めます。組み合わせです。
この内容には、あの先生のワークショップが合う。この発問には、あの人の板書の型が合う。パズルのように組み合わせられるようになると、初めての単元でも組み立てられます。
初任のころの私に一つだけ言えるなら、これを言います。もっと人の授業をパクれ。当時は、自分の授業が一番優れていると思い込んでいました。あれがいちばんの遠回りでした。
まとめ 授業のうまさは目的で決まります
授業について、大事なところをまとめます。
いい授業とうまくいかない授業の違いは、目的があるかどうかです。因数分解をやること自体が目的になっていないか。なぜそれをやるのか、その先に何が待っているのかを、授業の中で言い続けてください。
授業づくりは発問から始めてください。発問が決まれば、必要な情報も板書もスライドも決まります。教材研究は、7割の生徒が到達すると思えたら終わりにしてください。
スライドにはハロー効果があります。ただし一緒に書き込む体験が失われ、準備の重さも見合いません。凝る必要はありません。作るならAIと過去の継ぎはぎで速く済ませてください。
グループワークは、やる必要があるかどうかから考えてください。全員に活躍の場があるときにだけ成立します。
そして、人の授業を見に行ってください。得意な部分だけを盗み、組み合わせられるようになれば応用が利きます。
目的から逆算された授業なら、手法は何でも、ある程度うまくいきます。目的を達成しているからです。それをやっている人が少ないから、たったこれだけで授業はうまく見えます。
生徒が特定できる情報は、AIに入力しないでください。 氏名、クラスと出席番号、家庭の事情は「この生徒」「A」に置き換えれば済みます。
お勤めの学校や自治体に、生成AIの取り決めがある場合はそちらを優先してください。 使ってよいツールと、入力してよい情報の範囲は、学校ごとに違います。
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